江戸前にこだわり、研鑽を重ねる女性すし職人 千葉由美さんのお店「穴子の魚竹すし」を訪れる

更新日:2021年4月27日

全てのすしだねに「仕事」を施す”江戸前すし”にこだわる、すし職人 千葉由美さん。圧倒的に男性の多いすしの世界で光を放つ女性すし職人だが、逆に女性ということにこだわらず、「手先の器用さ、美しいすしを握れるかどうかに男女は関係ないので」と穏やかに話す。すしに魅せられ、進む道に迷いのない千葉さんだが、最初はすし職人になるつもりはなかったという。優しい笑顔の中に、職人の清潔感と凛々しさを持つ千葉さん。すしの魅力と、それを支える静岡県産の食材について、多岐にわたり、話してくれた。


穴子の魚竹すし

静岡県静岡市清水区草薙122

TEL.054-345-8268

http://www.uotakesushi.com/


すしに魅せられ、女性すし職人が誕生


白衣に身を包み、板場に立つ千葉さんは、どこから見てもひとかどのすし職人。しかし、「父と叔父が営むこのお店を継ぐ気は、当初、全くありませんでした」と、驚きの発言が飛び出した。後を継ぐことが幼い頃からの既定路線のようになっていたことにも反発し、都内の大学に進学、就職もそのまま都内へ。その後、結婚がきっかけとなって地元に戻り、ホール係のアルバイトとして「魚竹寿し」に入社したが、この時点でも板場に立つ気はなかった。接客する時に商品知識がもっとあればお客様と話が弾むと思い、叔父から魚のおろし方などの仕込みを、父からすしの歴史を教わり始める。転機はそこで訪れた。「すしはただ、魚とシャリを握ればいいわけじゃない」。29歳でそう気づいた時は、すっかりすしの世界の奥深さに魅せられ、すし職人の道に進むことを決意していたという。



奥深いすしの魅力とは


千葉さんから、江戸前と関西では、すしを示す漢字も違うとうかがった。関西ではすしは”鮓”と書く。関西のすしは発酵ずしが元々で、今もなれずしに名残がある。すしの歴史や成り立ちを知ることが好きで文献にもよく目を通し、その上で、板場ですしを握ることに精を出す。毎日、一つ一つのすしだねに、丁寧に仕事をする。例えばこはだにはネギと、鯛で作ったおぼろを噛ませ、酸っぱさの加減をする。タコの桜煮には包丁で歯打ちを入れ、赤身は漬けにし、海老は甘酢に漬け込む。厚焼き玉子には消えそうな火加減でゆっくりゆっくり火を通す。片面を焼くのに45分、もう片面に30分。鞍がけにしてでき上がる。全てはシャリとすしだねがなじみ、お客様が口に運んだときに幸せを感じてもらうため。


「江戸前すしは、一皿の中にお刺身、煮物、酢のもの、焼きものなど、和食の全てが入っているんです」。握れば握るほど、すしの世界の深淵をのぞく気になる。昨日より今日、今日より明日、さらにおいしくなるように、工夫も努力も怠らない。




静岡県産の食材を江戸前の技術で握る


本来、江戸前すしは江戸の前(東京湾)で獲れた魚介を握ったすしを指していた。その後、冷蔵技術がなかった時代に酢で〆たり、煮汁で煮たり、塩をしたり、タレに漬け込んだりと、さまざまな加工を加える技術のことも、「江戸前」の定義になっていった。「穴子の魚竹寿し」のすしは、前述の通り、一貫ごとにちがう仕事が加えられた江戸前すし。駿河湾の豊かな恵みと、全国の旬の美味を取りそろえて、今日もお客様を待つ。


「静岡で水揚げされた魚と全国の旬のものを取り混ぜて、その日一番おいしいすしだねをお出しします。ほぼ半分以上が静岡産の魚介になりますね」。この日は、サヨリやカマス、ヒラメ、マグロ(赤身と中トロ)などが県内で水揚げされたもの。県外のお客様からのリクエストで、静岡産のものを中心に握ることもある。


「それに、お茶とわさびという、すしに欠かせない名脇役も、もちろん静岡産のものです」。特に千葉さんが魅力を感じているのは静岡市の北部に位置する有東木のわさび。「標高が高いところで育つせいか、味が濃厚。風味が持続して、すしとの相性が抜群にいいわさびなんです」。


ある日、千葉さんが絶賛する有東木の丸一農園へ、連れ立ってうかがった。




千葉由美


女性のすし職人であり、静岡市清水区草薙「穴子の魚竹寿し」の2代目社長。結婚のため静岡に戻り、父と叔父の営む「穴子の魚竹寿し」にアルバイトとして入社。

自身の技術を向上させるため、すし組合の勉強会や全国大会に出場するなど、日頃から地道に励んでいる。私生活では大学生から中学生まで1男2女の母。数年前に大病をしたことで健康に過ごせることに感謝し、すし職人の道に更に積極的に邁進している。



 

標高300〜1000mの地で作る有東木のわさび

丸一農園 wasabiクリエイター 望月佑真さん


静岡市の街中から、安倍川に沿って30キロほど北上、その後、支流の有東木沢に沿って3キロほど行くと、北と東西を山に囲まれた扇型の地形に出会う。そこが標高500〜600mの有東木集落だ。豊富な湧き水と澄んだ空気、肥沃な土壌を誇るわさび発祥の地である。


有東木地区のわさび栽培について、「湧き水が暖房にも冷房にもなる」と話す丸一農園の望月佑真さん。の望月佑真さん。わさび農場は標高300〜1,000mの中に点在しており、わさびの生育地としては寒冷な方。冬は凍害に悩まされるが、その分、夏は涼しく、一年を通してわさびの栽培が可能な地でもある。


この地の気候がもたらす、わさびの味わい


「すしとわさびは、切っても切れない文化として、お互い一緒に伸びてきた感があります」と話す望月さん。すし職人の千葉さんも大きく頷く。標高の高さにより、温暖な地域よりも有東木のわさびの成長はやや遅い。つまり、同じ年月を重ねたわさびでも他地域よりサイズが小さめ。だが、その分、味が濃い。密なわさびで「粘り気があって、水っぽくないんです」と千葉さんも太鼓判を押す。人差し指で、すしだねにちょんっと付けられる。



和食文化の象徴として、世界中から注目を集めるわさび。栽培自体も、澄んだ水で育てて肥料や農薬もほぼ使わないため、環境負荷が少ない持続的な農法として知られている。


日本古来の野菜「わさび」を、有東木の集落全体で推す



15年ほど前から、望月さんの父の世代が積極的に働きかけ、有東木のわさびの美味を世間に知らしめた。「父たちは、”せっかくだから、有東木全体で頑張ろう”と、有東木という集落の知名度も上げました」。和食店に卸し始めたのもこの頃だという。望月さんは丸一農園の11代目だが、「有東木ではまだまだ新しい方」と笑う。「集落全体では、わさびを作り続けて400年くらい経ちますから」。慶長年間(1596〜1615年)にわさび栽培がこの地で始まったことから、有東木は、わさび発祥の地とされている。1607年、駿府城で晩年を過ごしていた徳川家康が有東木のわさびを気に入り、門外不出とした言い伝えも。「数少ない、日本原産の野菜です」。集落のみんなで、コツコツと歴史を積み重ねてきた。現在では仲間と通販も行い、消費者に直接、わさびの魅力を伝えている。

 国指定重要無形民俗文化財「有東木の盆踊」や市指定無形民俗文化財「有東木の神楽」なども有する有東木。観光客の訪れる「うつろぎ」(有東木特産品販売施設)も、近年ますます人気を集める。


千葉さんと望月さんは時どき清流に指を浸し、有東木について、そして有東木のわさびの魅力について、存分に語り合っていた。


望月佑真


有東木のわさび農家、丸一農園の11代目。21〜25歳まで山梨県に本社がある種苗会社に勤め、日本中のわさびの産地を歩く。その後、後を継ぐため、丸一農園へ。真摯にわさび栽培に励み、これまでに農林水産大臣賞を2回受賞。「継いだ時からこの賞を取りたいと思っていたので、本当に嬉しかった」と笑顔で話す。わさびの高品質な味わいは評判で、静岡県内のみならず、全国の名だたる和食店から引き合いがある。



【魚竹すし 近隣のオススメスポット】


◆静岡県立美術館

日本平のふもと、緑に囲まれた美術館。

静岡県静岡市駿河区谷田53−2 TEL 054-263-5755 FAX 054-263-5767

開館時間 10:00~17:30(入室は17:00まで)

休館日  月曜日(祝日の場合開館・翌日休館)

※詳細はカレンダーをご覧ください

http://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/


◆久能山東照宮

徳川家康公をお祀りする最初の神社。当時の技術と芸術が凝縮された社殿は、平成22年12月に国宝指定された。 静岡県静岡市駿河区根古屋390 久能山東照宮社務所 TEL 054-237-2438 FAX 054-237-9456 https://www.toshogu.or.jp/


◆日本平ホテル

静岡市の絶景と世界文化遺産の富士山三保の松原を臨む静岡市の日本平に位置する「風景美術館」

静岡県静岡市清水区馬走1500−2

代表・宿泊予約 054-335-1131

https://www.ndhl.jp/


【有東木周辺のオススメスポット】


◆うつろぎ

わさび栽培発祥の地「有東木」の農林産物加工販売所

静岡県静岡市葵区有東木280-1

TEL 054-298-2900

平日10:00~15:00、土日・祝日9:00~16:00

http://utougi.hiho.jp/


◆真富士の里

大河内平野 農林産物加工販売所 静岡県静岡市葵区平野1097−38 TEL 054-293-2255

営業時間 4月から11月まで8:00~17:00、12月から3月まで8:30~16:30

定休日 年末年始・新茶期休業(2週間)、9月第4日曜日 http://www.okushizuoka.jp/100sen/spot/000141.html ◆黄金の湯

オクシズ梅ヶ島の新田温泉 静岡県静岡市葵区梅ヶ島5342-3 TEL 054-269-2615

受付時間 9:30~17:30 入場料 大人 700円、小人 300円(3歳~小学6年生)、0~2歳 無料

定休日 月曜日(祝日の場合は翌日)

https://www.koganenoyu.com/


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